エアコンの歴史と原理:快適な室内環境の進化と仕組み解説
エアコンは私たちの日常生活において、快適な室内環境を作ってくれる。そして、我々は、エアコンが空気を冷やす原理など知らなくても、エアコンを使って快適に生活することはできる。
でも、理由も分からずに、その利益だけを享受することに満足できない人もいるだろう。
エアコンは、熱力学や熱伝導の原理に基づいて設計されており、暖房や冷房を通じて室温を調節する役割を果たしている。この記事では、エアコンがどのように動作し、どのような原理に基づいているのかについて詳しく探っていく。
エアコン
エア・コンディショナーとは、空調設備の一つで、室内の空気の温度や湿度などを調整する機械である。日本での通称が「エアコン」である。
日本語の「エアコン」という言葉は冷房と暖房が出来るヒートポンプ式の空調設備を示す。
英語で「air conditioner」や「Air conditioning」というと、ヒートポンプなど技術的な意味を問わず、冷房、冷房機など冷房専用タイプを含む意味である。
英語で日本語の「エアコン」に相当する単語、熟語は存在しない。
日本の「エアコン」に相当する製品は「heating and air conditioning system」(暖房と冷房システム)や「Cool & Heat」と呼ばれている。
「エアコン」は「クーラー」と呼ばれることもある。
日本語で「クーラー」というと、エアコンの冷房用での使用や冷房専用タイプを指すことが多いが、英語の「Cooler」は主としてクーラーボックスを意味する。
エアコンの原理
エアコンでどうして部屋が涼しくなるのか、わかっていない人がほとんどなのではないだろうか。
そこでここでは、エアコンで涼しくなる原理をみていく。
エアコンの仕組みは部屋内の空気から「熱」を排出し、その結果、部屋の温度を下げるものだ。エアコンを起動すると、部屋内の空気から徐々に熱が取り除かれ、それにより快適な冷涼さが得られる。
空気中には熱が含まれており、その量が増えると部屋は暖かくなる。逆に、空気中の熱が少ないと部屋は涼しくなる。そのため、部屋内の空気から熱を排除することで、室温を下げることが可能だ。
熱の排出
では、エアコンがどのようにして「熱」を排出しているのだろうか?
エアコンは、室内ユニットと室外ユニットの2つの要素で構成されています。これら2つが組み合わさって1台のエアコンとなる。そして、室内ユニットと室外ユニットはパイプで接続されていて、このパイプを通じて、部屋内の熱を外部へと移動させている。
パイプの中には「冷媒」と呼ばれる物質が循環していて、室内ユニットと室外ユニットを繋ぐ役割を果たしている。この冷媒によって、部屋内の空気から熱を取り出し、外部へ排出している。
さらに、室内ユニットと室外ユニットには「熱交換器」と呼ばれる部品が装備されている。冷媒が通るパイプは熱が移動する道で、線路だとすると、「熱交換器」は熱が移動する場所であり、駅のような役割を果たす。
このようにして部屋の冷却が行われる。
冷却の具体的な流れを詳しく見ていく。
最初に、室内ユニットの「熱交換器」によって部屋内の暖かい空気から「熱」が冷媒に移される。この結果、冷却された空気が部屋外へ放出される。
次に、「熱」を帯びた冷媒はパイプを通って室外ユニットへと移動する。室外ユニットの「熱交換器」によって熱が放出される。その後、熱を放出した冷媒は再び室内へ戻り、「熱」を再び取り込むための準備をする。
冷媒は繰り返し部屋内と外部を往復し、「熱」を移動させる。その結果、部屋の内部の熱が外部へと運ばれ、部屋の温度が次第に下がっていく。
冷媒が「熱」を載せる原理
ではその冷媒が、いかにして「熱」を載せるか、または熱を取り除くか、その仕組みはどのようなものなのだろうか?
「熱」は、高温から低温へと移動する性質を持っている。冷媒が熱を載せたり取り除いたりするのは、この性質を有効に利用しているからだ。
具体的なイメージを思い浮かべてみよう。
氷に触れると、その表面は冷たく、手が冷えるのがわかる。これは、手のひらから氷へと熱が移動したため、手のひらが冷たく感じられるためである。このようにして、熱は高温から低温へと移動する。
冷媒も同様に、室内ユニットを通過する際に冷やされている。室内ユニットの熱交換器において、「熱」(高温側)から「冷たい冷媒」(低温側)へと熱が移動する。
一方、室外ユニットでは逆の操作が行われます。こちらでは、冷媒から周囲の空気へと熱が移動する。室外ユニットに到達した冷媒は高圧下に置かれ、外部の空気よりも高温になる。この結果、「熱い冷媒」(高温側)から外部へ熱が移動する(低温側)。
このようなプロセスによって、冷媒は繰り返し高温から低温へと熱を移動させていく。その結果、部屋内の熱が外部へ運ばれ、室温が下がっていく。また、室内機と室外機を逆にすると暖房になる。
こんな仕組みを誰が考えたのだろうか。
次は、エアコンの歴史をみていこう。
エアコンの歴史
1758年、ベンジャミン・フランクリンとジョン・ハドリーは、蒸発の原理を活用して物体の急速な冷却実験を行い、アルコールやエーテルの蒸発によって物体を氷点下まで冷却できることを示した。
水銀柱式温度計の球部を冷却し、ふいごを用いて蒸発を促進し、周囲の気温が65 °F(18 °C)の条件下で、温度計の球部を氷点下7 °F(-21°C)に冷却したと報告された。フランクリンは氷点下に達すると、温度計の球部に薄い氷が形成されることに気付き、氷が約6ミリメートルの厚さに成長する様子を観察した。
1820年、イギリスの科学者マイケル・ファラデーは、液化アンモニアの蒸発により周囲の空気を冷却できることを発見した。
1842年にアメリカの医師ジョン・ゴリーは、圧縮冷凍技術を用いて氷を生成し、病院の病室を冷やす実験を行った。
ゴリーは建物全体の温度を制御し、都市全体の空調を管理する構想を描いたが、そのアイデアは資金不足と財政問題のために実現されなかった。彼の製氷機のアイディアは後に空調技術の進化に影響を与えた。
エアコンの商業利用は、当初は工業生産における冷気生成が目的だった。1902年にアメリカのウィリス・キャリアが電気式エア・コンディショナーを発明した。
このエアコンは印刷工場の製造プロセスを改善するために設計され、温度と湿度を同時に制御できる機能を持っていた。キャリアの技術は生産性向上に貢献し、さまざまな産業で利用された。
1906年、アメリカのスチュアート・W・クラマーは織物工場の湿度制御を模索し、加湿と換気を組み合わせた「エア・コンディショニング」の用語を提唱した。この方法による水蒸気の放出は、冷却効果があり、現在ではミスト散布として知られている。
初期のエアコンや冷蔵庫は、有毒で可燃性のガスを使用していた。1928年に安全な冷媒であるフレオンが開発された。しかし、これらの物質は後にオゾン層に悪影響を及ぼすことが判明し、環境への影響が懸念された。その後、代替冷媒の研究が進められ、自然界に存在する物質や環境に優しい冷媒が提案されている。
エアコンは第二次世界大戦後に急速に普及し、1968年には日本で室外ユニットと分離された軽量なエアコンが初めて発売された。
近年の空調技術の進化は、エネルギー効率と室内空気質の改善に焦点を当てており、自然界の物質を用いた代替冷媒や次世代の環境に配慮した冷媒の研究が行われている。
エアコンの部品
エアコンは複数の部品が組み合わさって動作している。一般的なエアコンの主要な部品を解説していく。
- 室内ユニット
- 室外ユニット
- 冷媒回路部品
- 制御部品
- その他
エアコンの部品はこの5つに分けられる。
室内ユニット
室内ユニットはエアコンの操作パネルやディスプレイを含む部分で、室内に設置される。冷暖房された空気を吹き出す吹き出し口もこのユニットにある。
室内ユニットの部品
- クロスフローファン
- フィルター
- 熱交換器
- ブロワーモーター
- スイングモーター
- ドレンパン
- 電子制御ユニット
熱交換器
エアコン内の熱を移動させるための部品で、室内ユニットと室外ユニットの両方に存在すうr。熱交換器は冷媒を通じて熱の移動を行う。
この部品は、室内ユニットにおいて部屋の温度調整を行う上で欠かせない。熱交換器は、室内ユニットに取り込まれる外部空気を冷却または加熱する役割を果たす。
熱交換器は、薄いアルミニウム製の板で構成されている。
大型のアルミ板を切り分け、室内ユニットに適合するサイズに組み立てられている。これらのアルミニウム板の表面には凹凸を持たせ、表面積をアルミニウム板約7枚分にまで拡大させる工夫が施されている。
クロスフローファン
クロスフローファンは管状の形状を有し、効果的に風を発生させ、室内の空気の循環を担当する。
室内ユニットと室外ユニットの両方にこのファンが搭載されている。
冷暖房された空気や冷却された冷媒を循環させる役割を果たす。
ファンといえば、プロペラ型がまず思い浮かぶが、管のような形状をあえて採用している。
プロペラ型では風が直進しにくく、遠くまで到達しづらい。クロスフローファンは風を広範囲に均等に送り届けることができるため、管状の形状が採用されている。
また、クロスフローファンはプロペラ型に比べて騒音が少ない。室内ユニットには、風を「大量に」「遠くへ」「静かに」送り出すための効果的な設計として管状のクロスフローファンが採用されているわけだ。
フィルター
フィルターは、室内ユニットに外部から吸い込まれる空気の入口部分に位置し、アミのような構造になっている。
このフィルターは、空気中の微小な塵埃を捕らえる役割を果たす。室内ユニット内部の埃の蓄積を防ぎ、エアコンの機能を適切に発揮させるために重要だ。
フィルターが汚れると、空気の流れが妨げられ、空気を取り込むために多くの電力が必要となる。したがって、フィルターはこまめな清掃と保守が必要になる。
室外ユニット
室外ユニットはエアコンの冷却ユニットで、通常は室内ユニットの外に設置される。冷媒の圧縮と冷却がこのユニットで行われ、外部へ熱が放出される。
室外ユニットの部品
- 圧縮機
- コンデンサーコイル
- ファンモーター
- キャパシタ
- エクスパンションバルブ
- サーモスタット
圧縮機
冷媒を圧縮して高温高圧のガス状態に変える役割を担う部品だ。この圧縮された冷媒は室外ユニットに送られ、熱交換器で冷却される。
コンデンサーコイル
熱交換器内にあるコイルは、冷媒と空気の間で熱の移動を促進します。熱交換コイルは冷房時と暖房時の両方で使用されます。
冷媒回路部品
冷媒
エアコンの動作に必要な媒体で、高温から低温へ熱を移動させる役割を果たす。冷媒は液体と気体の状態を変えることで熱の移動を実現する。
冷媒回路部品
- エバポレーターコイル
- 吸収器
- 排気管
- 冷媒配管
制御部品:
制御部は、エアコンの動作を制御する部品で、温度や風量などの設定を操作パネルから受け取り、適切な動作を実行する。
- リモコン
- センサー
- 制御ボード
その他
- ヒーター
- デフロストセンサー
ヒーターは寒冷地域での暖房に使用される。
デフロストセンサーは低温時に霜を除去するためのセンサーである。
これらの部品が連携して、エアコンは室内の温度を調節し、快適な環境を提供する仕組みとなっている。これらは一般的なエアコンの部品の一部だが、製造会社やモデルによって部品の種類や名称が異なることがある。
エアコンの室外機とは
エアコンというと室内機ばかりを思い浮かべがちだ。
上述したように、スプリットエアコンシステムやマルチスプリットエアコンシステムでは、室外機は、室内ユニットと連携して冷暖房を提供するための重要な部分である。
その役割と特徴について説明する。
室外機の役割
室外機はエアコンシステムの一部で、主に以下の役割を果たす。
室外機内には冷媒が循環しており、これが室内から吸収した熱を外部に放熱するための冷却部分が含まれている。これによって冷媒が再度冷却され、室内ユニットに送られて冷房効果が得られる。
室外機内の圧縮機は、冷媒を高圧に圧縮する役割を果たす。高圧に圧縮された冷媒は室内ユニットに送られ、蒸発器内で膨張し冷却効果をもたらす。
室外機には排熱を効率的に行うための送風ファンが備わっている。このファンは室外機内の熱を外部に放出する際に空気を循環させ、冷却効果を高める。
特徴
室外機の一般的な特徴は以下の通りだ。
室外機は屋外に設置されるため、防水性や耐久性が要求される。さまざまな気象条件に耐えるための設計が施されている。
近年の室外機は、コンパクトなデザインが進化している。場所を取らず、外観にも配慮されている。送風ファンやコンプレッサーの音を低減する技術が採用されており、静音性が向上している。
エアコンシステム全体のエネルギー効率向上を図るため、室外機も高効率な部品や設計が採用されている。
室外機の選択や設置は、エアコンシステムの正しい動作に大きな影響を与えるため、メーカーの指示に従い、適切な場所に設置することが重要だ。
家庭用エアコン
家庭用エアコンには、2つの主なタイプが存在する。
一つは窓型エアコンで、圧縮機・凝縮器・蒸発器が一体となっている。もう一つはセパレート型で、圧縮機・凝縮器が室外機に一体化され、蒸発器が室内機に内蔵されている。
セパレート型エアコンは、東アジア圏の日本を含む地域では壁掛型が主流である。一方、欧州では横長長方形の窓型が一般的だ。
米国では一般家庭でも各部屋にダクトを使用して冷暖房を行うダクト方式が広まってきたが、日本のエアコンに代表されるダクトレス方式も評価を受けている。
エアコンの能力には2.2 kWから7.1 kWまでさまざまなタイプがある。また、使用する電圧も単相100V、単相200V、三相200Vなどがある。通常、エアコン一台には子ブレーカー1個が必要になる。
動力の三相200Vエアコンは、外観上は一般の100/200V単相エアコンと同じだが、受電方法に規制がある。家庭で三相200Vを使用できるのは屋外機器のみとされていて、室外ユニットは三相200Vを使用し、室内ユニットの運転および通信制御は別途室内側で単相100/200Vで受電される。
家庭用エアコンは、冷房・暖房・ドライ(除湿)など多彩な空気調整が可能な機種が多くある。近年では省エネ化や内部の改良により、以前のモデルと比べて消費電力が少なくなっている。
インバータ制御
日本国内において、窓型エアコン以外のセパレート型エアコンのほぼ全てがインバータ制御を採用している。
東京芝浦電気(現・東芝)が1981年に初めて導入したことで、インバータエアコンが誕生した。この新しいエアコンは、圧縮機に誘導電動機を用いる革新的なシステムだった。
「インバータ」とは、直流または交流から異なる周波数の交流を生成する電源回路、またはそのような回路を備えた装置を指している。制御装置と組み合わせることで、省エネルギーの効果をもたらすことが可能であり、そのため利用範囲は広がっている。
1990年代には、高効率なブラシレスDCモータとPAM制御を使用した電圧制御が導入され、現在ではほとんどの圧縮機およびファンにおいて、ブラシレスDCモータが採用されている。
日本ではインバータエアコンが主流だが、世界的には非インバータエアコンが広く普及している。非インバータエアコンは50Hz地域では能力が60Hz地域よりも低くなる傾向がありますが、インバータエアコンはこの違いがほとんどない。
かつては非インバータエアコンのカタログは50Hz地域と60Hz地域で分けて作成されていましたが、現在では能力の違いが併記されている。
日本国内では窓型エアコンにおいても、インバータが採用された例が存在する。例えば、松下電器産業(現・パナソニック)のCW-G18系が挙げられるが、窓型エアコンのインバータ採用例はその後一般的ではなかった。窓型エアコン全体においては、非インバータのモデルが大多数を占めている。
海外でも壁掛型エアコンが一般的だが、日本のエアコンは機能が豊富である一方、欧米ではセントラルヒーティングや暖炉などが一般的な暖房手段として広く利用されている。
室内機の形態
エアコンにもいろいろな形状が存在する。
床置型(スタンドスタイル)
古い業務用(ビル用)のタイプで、1970年代まで使用された。室内機はタンスの大きさに近く、または窓際に高さ1メートル程度の位置に吹き出し口を持っている。
室内機は壁際に設置されているが、そのため床面積が減少する。新しい建物ではあまり使われなくなった。古い地下鉄の駅や工場、事務室などでまだよく見かけることがある。
また、圧縮機・凝縮器・蒸発器・送風機が一体化し、キャスターがついて移動できる冷風機も、業務用・家庭用の両方で販売されている。
壁掛型
家庭用セパレートエアコンのタイプで、業務用も存在する。
天井吊型
天井の骨組みが見える場所や学校などの一部公共施設で使用される。
天井埋め込みカセット型
通称「天カセ」。吸込口・吹出し口のある蒸発器内蔵ユニットを天井に埋め込むタイプ。天井が平らになり、床面積が減少しないため、店舗やオフィスビルなどの業務用で広く用いられている。
床置型(ファンヒータースタイル)
家庭用セパレートエアコンの一種で、石油ストーブに似た形状。1980年代頃までは和室向けに主に使用され、冷房能力に関する問題点から急速に減少したが、完全には消滅していない。また、同様の理由で暖房時には有利な側面もある。
ダクト接続型
ユニットとダクトを接続し、吸込口・吹出し口を任意の場所に設置できるタイプ。大型ビルやホテルなどで使用される。
エアコンの原理を先人たちが深く探求してくれたおかげで、私たちは四季折々の気温変化に関わらず、私たちは涼しさや暖かさという快適な居住環境を享受できるようになった。エアコンの原理を理解できてもできなくても、故障しないように丁寧に掃除などのメンテナンスはしていきたいところだ。