プレートテクトニクス至るまでの説の変遷
プレートテクトニクスの概念が登場する前には、地球の地殻の変動や山脈の形成などの地理学的な現象について、さまざまな説が存在した。
これらの説は、地球の地殻変動の理解を試みるための初期の試みであり、プレートテクトニクスの考え方が確立される以前には、以下のような主要な説が提唱されていました。
大陸移動説
1912年、ドイツのアルフレッド・ヴェーゲナーは、かつて地球上のすべての大陸が一つにまとまったパンゲア大陸と呼ばれる大陸だったが、中生代末に分裂して、現在の大陸の形になった、とする大陸移動説を発表した。
ヴェーゲナーは、大陸移動説を裏付ける証拠として、大西洋を挟んだ北アメリカ大陸と南アメリカ大陸、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸の海岸線が似ていることや、両岸で発掘された古生物の化石が一致することを挙げた。これらのことから、かつては一つの大陸であったとする仮説が立てられた。
それまで、古生物学の通説は、古生代までアフリカ大陸と南アメリカ大陸との間には陸橋が存在すると考えられていた。しかし、ヴェーゲナーは、アイソスタシー理論によって、この説を否定した。
注目されなかった大陸移動説
大陸移動説には、古生物や地質、氷河分布などのさまざまな証拠があった。しかし、当時の人には、大陸が動くこと自体が信じられず、大陸移動説は注目されなかった。
ヴェーゲナーは、大陸が地球の自転による遠心力と潮汐力で動くと説明したが、この説明には無理があり、ヴェーゲナーは激しい攻撃を受けた。そのため、ヴェーゲナーが生存している間は、大陸移動説は注目される説ではなかった。
アレクサンダー・デュ・トワやアーサー・ホームズなど、大陸移動説を支持する学者も少数ながらいた。なかでも、1944年にアーサー・ホームズが発表したマントル対流説は、大陸移動の原動力を地球内部の熱対流に求めるものだった。
1950年代に入ると、古地磁気学分野での研究が進展し、各大陸の岩石に残る古地磁気を比較することで、大陸ごとに異なる磁北移動の軌跡が導き出された。大陸が移動すると考えることで、この軌跡を合理的に説明することが可能となり、大陸移動説は復活した。
海洋底拡大説
海洋底の研究が進む中、1961年から1962年にかけて、ハリー・ハモンド・ヘスとロバート・ディーツは、海洋地殻は海嶺で生まれ、海溝で消える、という海洋底拡大説を唱えた。
海嶺周辺の地磁気の調査で、数万年ごとに発生する地磁気の逆転現象が、海嶺の左右で全く同じように記録されていることがわかった。フレデリック・ヴァインとドラモンド・マシューズは、この現象をテープレコーダーのように地殻が成長していることを示す証拠として、1963年に理論化した。
さらに1965年、ツゾー・ウィルソンは、トランスフォーム断層の概念を提唱した。
これらの理論を基に、地震は海嶺や海溝、トランスフォーム断層でしか発生しないことがわかった。また、地震がほとんど起こらない安定した部分を囲むように、地震が発生する地域があることも明らかになった。
この安定した部分はプレートと呼ばれ、これがそれぞれ移動していることがわかった。この発見により、ツゾー・ウィルソンやダン・マッケンジー、ウィリアム・ジェイソン・モーガン、グザヴィエ・ル・ピションといった複数の学者によって、1968年にプレートテクトニクス理論が完成した。
プレートテクトニクス理論の普及
プレートテクトニクス理論は、西側諸国ですぐに広まり、1970年にはほとんどの学者に受け入れられた。この理論は地学に大きな変化をもたらし、地球の構造や歴史を理解する上で欠かせないものになった。
一方、東側諸国では、理論構築に大きく貢献したのが西側諸国だったため、この理論を帝国主義的思想とみなし、ソ連が崩壊する90年代まで完全に受け入れられなかった。
日本では、1973年から高校の地学の教科書でプレートテクトニクス理論が取り上げられるようになったことや、同年のベストセラーである小松左京の『日本沈没』でプレートテクトニクス理論が用いられたりして、一般社会に広まった。
しかし、日本の地質学界ではマルクス主義思想が強かったことや、ソ連が推す地向斜造山論に傾倒していたことなどが重なり、地質学界の常識と異なるプレートテクトニクス理論は受け入れられず、一般社会で普及するのに10年以上を要した。
プレートテクトニクスの存在する天体
地球型惑星や一部の衛星には内部が高熱で火山が存在するが、プレートテクトニクスは地球にしか確認されていない。
火星にはかつて火山活動があったが、プレート移動が起きなかったため、火山は同じ場所に積もった。そのため、火星のオリンポス山は太陽系最大の火山である。
金星にはプレートテクトニクスによる地形は見られず、プレートテクトニクスは存在しないと考えられている。
2014年には、木星の衛星であるエウロパで、氷地殻が沈み込むように見える地形が発見された。このことから、エウロパにプレートテクトニクスが存在する可能性があるという論文が発表されている。
この場合、エウロパの地殻を構成する氷が地球の岩石のように動き、内部のより高温の氷の上に乗った地表の氷地殻が沈み込むと考えられている。
プレートテクトニクスの登場により、これらの説が統合され、地球の地殻変動がプレートの移動によって説明されるようになった。プレートテクトニクスは、地球科学の重要な基盤となり、地球の地形や地震、火山活動などの現象を理解するための主要な理論として広く受け入れられている。